はじめに
2025年現在、世界の自動運転農機市場は16.8億ドル規模に達し、2024–30年の年平均成長率は14.6%と予測されています。
それにもかかわらず、日本国内での実装は「圃場内のみ」「有人監視必須」といった規制の壁に阻まれ、大規模導入が進みません。そこで本稿では、法規制の課題と技術標準化の遅れを整理し、ISO 18497-1:2024やEU AI Actの最新動向を踏まえた解決策を提示します。
自動運転農機が拓く農業の未来
- 労働力不足の解消:夜間無人作業により最大2 〜 3倍の稼働時間を確保。
- 精密農業の推進:センシング+AIにより、施肥量を平均15%削減(国内実証、農研機構)。
- 環境負荷の低減:軽量電動トラクターは温室効果ガスを最大72%削減する可能性。
しかし、こうしたメリットを享受できるのは、法規制と標準化が整備されている国・地域に限られます。
日本の法規制という「見えない鎖」
2-1. 道路交通法75条の13が抱える矛盾
- 現状:レベル4相当の「特定自動運行」は「人または物の運送」を目的とする車両に限定。農機は適用外。
- 影響:圃場間や農道・公道を移動する際に有人運転が必要→人件費が削減できない。
- 提言:経団連は2024年度規制改革要望で「ロボット農機による農道・公道移動」を特定自動運行に追加すべきと明記。
2-2. スマート農業技術活用促進法の限界
2024年10月施行の同法は税制・融資優遇で導入を後押ししますが、公道走行の法的根拠まではカバーしていません。
技術標準化の遅れとグローバル潮流
項目 | 日本 | ISO 18497-1:2024 | EU AI Act(草案) |
---|---|---|---|
安全要件 | 個別メーカー基準 | 自律農機の包括的安全要件を規定(電磁・機械・ソフト) | AIを搭載する農機は多くが「低リスク」だが、一部機能は高リスク扱いの可能性あり |
公道走行 | 原則不可(圃場内のみ) | 規定なし(各国法に依存) | 各加盟国の車両法と連動 |
データ形式 | メーカーごとにバラバラ | ロギング形式を推奨 | 透明性・説明責任を要求 |
つまり、日本は安全規格の国際整合性と公道走行ルールの両方を同時に整備する必要があります。
課題克服ロードマップ(2025–30)
- 規制サンドボックスの常設化
- レベル4相当の無人運行を対象に、農道を含む試験区域を全国10か所に拡大。
- ISO 18497シリーズの国内JIS化
- 産官学コンソーシアムで翻訳・解釈ガイドを作成し、2026年までにJIS化。
- データ連携APIの標準制定
- AEF(Agricultural Industry Electronics Foundation)仕様をベースに、日本向け拡張項目を追加。
- オープン実証データベースの構築
- 実証結果を匿名化して公開し、自治体の許認可判断を迅速化。
- 人材育成
- メーカー・農業高校と連携した「自動運転農機エンジニア育成プログラム」を2027年開始。
まとめ
自動運転農機は労働力不足への即効薬であり、環境負荷低減や精密農業推進にも直結します。しかし現状の法規制の遅れと技術標準化の不足がボトルネックとなり、日本は世界の成長トレンドから取り残されつつあります。
- 道路交通法75条の13の改正
- ISO 18497-1:2024準拠の安全基準策定
- EU AI Actとの整合性チェック
――これらを同時並行で進めることが、農業DX担当者に課せられた急務です。
アクションポイント:まずは自社・自治体の実証実験をISO 18497準拠で設計し、規制改革要望のエビデンスとして提出しましょう。
参照:Autonomous Tractors Market Size & Trends
参照:Impact of lowered vehicle weight of electric autonomous tractors in a systems perspective
コメント